明日を駆ける 少年たち ~守られる大西流星から、守る大西流星へ~

2018年の夏、大西流星はまたひとつ大きくなった。

 

小学5年生でジャニーズに入り、即座にお兄さんたちに囲まれながら活動してきた流星は

風貌のかわいらしさと、人懐っこい性格もあり

常に先輩たちからも、ファンからもかわいがられながら歩んできた。

 

2017年に上演された「少年たち 南の島に雪が降る」では日記をつける新人を演じていた流星。

例えばブランコに乗る場面では、新入り故に赤チームメンバーからいじめられそうになっていたところをニシハタに助けられていた。

 

そしてそれまでに経験したことのなかった仲間の存在に包まれた彼は脱獄を呼び掛ける。

 

クライマックスではダイゴとトアをかばい、看守長の放つ凶弾に倒れた。

そして息を引き取るその瞬間も大好きな仲間たちに見守られながらだった。

悲劇的な展開でその命を落としたリュウセイだが、きっと最期は暖かく、幸せな時を過ごせたのだろう。

ラストシーンではダイゴが押してくれたブランコに

嬉しそうな、それでいてどこか切ない笑顔を浮かべる姿が印象的だった。

 

 

そんな、みんなの弟的な存在である流星にも

次々と後輩が登場してくる。

それに伴い、お兄さんらしく振る舞う姿も多く見られた。

 

2017年のX'mas Showでは次世代チームのリーダーを立派に務めあげたが

千秋楽で西畑らの顔を見た瞬間に安心したのか涙をおさえることのできなくなったところは

まだ16歳の小さな背中に、大きな重圧を背負いながら走ってきた流星を象徴するシーンだったのではないか。

 

 

2018年6月、大西流星にとって大きな転機になったのが

ミュージカル 魔女の宅急便 だ。

 

過去にもドラマ「スターマン この星の恋」に単独で出演したことがあったが

関西Jr.の枠を飛び越えて初めてミュージカルに挑戦したことは大西流星を大きく変えた。

 

魔女の宅急便で演じたトンボは

流星の実年齢よりも若い14歳、空を飛ぶことに憧れたピュアな少年である。

そんなトンボがキキと出会い、時に悩みながら成長していくわけであるが

 

ある日、体調を崩して飛べなくなってしまったキキをかばって、トンボはこう言う。

 

「キキを悪く言うのはやめてください」と。

 

彼がこの台詞を言い放った相手は町長をはじめとした権威のある大人たちである。

一人の少年が立ち向かうにはあまりに大きな存在ではないか。

 

しかし、彼は無自覚かもしれないが既に大事な人だと思っているキキが

大人の理不尽で責められることを見逃しておけなかった。

キキを守りたかったのだ。

その証拠に、このときの声色には怒りではなく、どこまでも優しさに溢れるものだった。

 

そしてトンボはキキを、そして町の人々の期待を守るために

自らの危険を顧みず、自作の飛行機に乗り込んだ。

怖かったはずだ。一度も成功したことがないのだから。

それでも守りたいものがある。

そんな思いがトンボを強くさせたのだろう。

 

 

このミュージカルを経て、スキル的にも精神的にも大きく成長した大西流星

8月、満を持して大阪松竹座に凱旋したのが「明日を駆ける 少年たち」だ。

 

前年から配役を一新して開幕した本作で流星が演じたのは

赤チームのリーダーであり、弟のトアにとってはかけがえのないお兄ちゃんであった。

 

昨年は助けられたブランコのシーン。

今年は同じようにいじめられそうになっていたナガオを助け、声をかける役を担った。

 

青チームや看守との乱闘ではトアを危険から守るべく戦った。

そしてトアが不安を口にしたとき、励まし、隣で肩を抱いてやったのは他でもない兄のリュウセイであった。

 

しかしそんな兄弟を運命が引き裂いた。

精神的に不安定になったトアは何かに導かれるように入水して亡くなる。

 

それを発見したときのリュウセイは切なく強かった。

大好きな弟の死である。きっと受け入れられない部分があったはずである。無念だっただろう。

そのとき彼が言ったのは

「こんな冷たくなって、寒かったやろ…」

「ごめんな、兄ちゃん守ってやれなかった…」

どこまでも弟を思い遣り、残酷なほどに美しい愛情を弟に投げ掛けた。

 

そして最愛の弟のために、生前二人で楽しく踊った「ポケットに青春のFun Fun Fun」を声を震わせて歌い上げる。

トアが天国でさみしがらないように、元気になれるように。そんな願いが込められていたのではないか。

 

そしてクライマックス、看守長により狙撃され息を引き取るナガオの亡骸に寄り添い

看守に引き剥がされそうになっても、離れるまいとしていた彼の姿は

紛れもなく赤チームのリーダーであった。

 

ある意味では、本作でのリュウセイはトアとナガオを守り抜くことはできなかったのかもしれない。

しかし二人にとってリュウセイは頼れるお兄ちゃんであり、自分を守ろうとしてくれる存在であったのは間違いないだろう。

 

もうそこには誰かに守られる大西流星の姿はなかった。